『伊勝八幡宮・井福神社』名古屋市昭和区

昭和区伊勝町
その昔、津田房勝(尾張藩士・1629~1701)の著した正事記に、この地の事が記されています。
ここを訪れた空海がここで水を求めたそうな、それを村人が拒んだために村中の井戸が涸れてしまった伝説があるようです。
そのことから「井湯の里」と呼ばれ、「井渇の里」となり現在の「伊勝」となったともいわれる。

f:id:owari-nagoya55:20200618173359j:plain 周辺は史跡散策路となっており、伊勝八幡宮への曲がり角に写真の様に周辺の見所が案内されています。

f:id:owari-nagoya55:20200618173643j:plain 案内板から北側に曲がるとすぐ右側に「伊勝八幡宮」社号標と玉垣で囲われた境内が現れます。
南北に細長く南入りの境内の様です。
境内は御覧の様に玉砂利が敷き詰められ、静かな住宅地の中に踏みしめる玉砂利の音が聞こえてくる、そんな厳粛な空間が漂います。

f:id:owari-nagoya55:20200618173725j:plain 道路際に掲げられた由緒書き、伊副神社由緒とあります。あれ?伊勝八幡宮のはずだが・・・・・
よく見れば右側に伊副神社の社号標がありました。
伊副神社由緒書き
御祭神 龗神、罔象女神
延喜式神名帳に記載されているが鎮座年代は不詳、伊勝八幡宮所蔵の棟札に「伊福神社天明3年癸卯年春伊勝村神主」と記されている。
江戸時代の絵図等の記録を調べると伊勝八幡宮正面(現在の前山町3)に伊副池があり、小山に社祀られていた。
尾張地名考」に「伊勝は井河津の約なり」と記されている、副は「寄り添い助ける分ける」の意がある。
伊副大神は生きとし生けるもの全てに最も大切な清らかな水と多くの恵みをもたらす神として崇められる。伊勢神宮62回式年遷宮の年に世の恒久平和と国や此里の安全弥栄を祈り再建。
とある。
天明3年は1783年、伽藍が新しいので歴史は浅いのかと思いきや、その当時から既にこの地に鎮座していたということです。

f:id:owari-nagoya55:20200618173754j:plain 井福神社境内
木の神明鳥居と石畳の先に流造の本殿、綺麗な狛犬見える。

境内左に控柱のある手水舎。

f:id:owari-nagoya55:20200618173834j:plain62回式年遷宮の年に再建とあるだけに、本殿を含め全てが新しく、境内手入れの良さもあり、参拝に訪れても気持ちがいい。

伊副神社
創建 /  不明
祭神 /   龗神、罔象女神

f:id:owari-nagoya55:20200618173903j:plain 伊副神社の右が伊勝八幡宮
並行するように石畳の参道が続く、鳥居はニノ鳥居まであるように見えます。
その先に石段があり、拝殿が見えます。

f:id:owari-nagoya55:20200618173926j:plain 一ノ鳥居の額を写真に収め、PCで見て初めて気が付いた事ですが、八幡の「八」が鳩の様に見えます。
後で調べたところではこちらの神社は別名「鳩八幡」と呼ばれることもあるようで、そのためか八が鳩のデザインになっているのでしょう。

f:id:owari-nagoya55:20200618174140j:plainニノ鳥居の手前に四脚の手水舎、手水鉢があります、遠目に龍の存在が分らず、そばに来て口を隠すように清水を注ぐ龍の存在に気づく。こうして見れば角はしっかりはみ出ています。

f:id:owari-nagoya55:20200618173952j:plainニノ鳥居の右に玉垣が切れた部分があるので、そちらに向かいます。
その中は「忠魂碑」が安置され、その後ろに「義勇奉行」と記された石碑、その左に「村社八幡社」の旧社号標が建っています。

1979年(昭和54)に伊勝八幡社へ改称した際にこちらに移設したのでしょう、その後現在の伊勝八幡宮に社名変更されたようです。

f:id:owari-nagoya55:20200618174222j:plainニノ鳥居から拝殿の眺め。
石段の右の巨木、樹齢1000年を超えるといわれるご神木のアベマキ、大きさのみならず、伊勝八幡宮の歴史を物語るものです。

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 石段を上がりきると台座に橘紋の刻まれた狛犬、なかなか体形の整った姿をしています。

f:id:owari-nagoya55:20200618174313j:plainご神木のアベマキの右に一対の狛犬と二つの建物。
左が寳物殿で右が覆殿、その間に小さな覆屋があり熱田社が単独で祀られています。
覆殿を守護する狛犬、ここでに狛犬を3対見てきた事になります。
こちらの面々、若干肉付きがいいものの、凛々しいスタイルをしています。

f:id:owari-nagoya55:20200618174342j:plain 覆殿の三社
左から富士浅間社、山神社、埴山姫社。この三社は流造。

下の写真は単独の覆屋に祀られた熱田社。こちらは神明造。
何れも建て替えられ、台座も社も綺麗な状態です。

f:id:owari-nagoya55:20200618174407j:plain 覆殿のある境内の西側から見た唐破風向拝の曲線が美しい拝殿から本殿の眺め。
今一つ本殿の全容は掴めません。

f:id:owari-nagoya55:20200618174434j:plain 拝殿前にも一対の狛犬が見えます。
彼らで4対目。

f:id:owari-nagoya55:20200618174503j:plain 拝殿を守護する狛犬、大きく目を見開きこちらを見据え、撫で牛もこちらを見ているようです。
これまで見てきた狛犬の中では一番愛嬌のある顔つき。
参拝させていただきます。
拝殿前に撮影禁止の張り紙がありこれ以上は控えさせていただきます。

伊勝八幡宮に伝わるものに1985年(昭和60)に愛知県の文化財に指定された陶製の狛犬があります。
「山犬型・古瀬戸鉄釉狛犬」と呼ばれ、その台座には「応永廿五戊戎歳(1418)十二月朔日熊野願主浄通」の墨書銘があるそうです。
そのことからもそれ以前には伊勝八幡宮は鎮座していたと思われます。

瀬戸窯で狛犬を製造し伊勝神社に奉納されたもので、全身は黒色で狼を思わせる威厳のある顔と鋭い目をもつといいます。
昭和初期頃までご神体前の帳の鎮子として置かれていたため保存状態も良好らしく、伝世されている狛犬の中でも第一級の基本資料とされ、伊勝型として分類されるようです。
実物は​名古屋市博物館のHPに掲載され、そちらで見ることができるようです。
熊野大社の狼に繋がる狛犬は、この神社にあって一番個性的で威厳のようなオーラを放っています。

この狛犬について尾張志(天保15年尾張藩の総力を結集し取り纏められた)にも記されていて、伊勝村に應神天皇を祀る神社があり、神社には陶器の狛犬あり、うらの銘に「應永廿五戊戌歳十二月朔日熊野願主浄蓮」と記されています。
その中で「1441年(嘉吉元年)當社を御器所村に移し祀った」とあり、この通りだとすると元々の神社は
御器所村に移され、その跡地に現在の伊勝八幡宮が建った事になります。
御器所と聞くと御器所八幡社が思い浮かぶけれど、移された神社がそれなのかは不明。

f:id:owari-nagoya55:20200618174531j:plain 拝殿左の伊勝天神。
絵馬かけには多くの願いが寄せられています。

f:id:owari-nagoya55:20200618174555j:plain 伊勝天神側から見た伊勝八幡宮本殿、やはり伽藍の全容を見ることはできません。

f:id:owari-nagoya55:20200618174621j:plain 伊勝天神の西にも鳥居と手水舎があります。
この鳥居から5分ほど西方面に行くと遺構は残っていませんが伊勝城があります。
1573~1592年(天正年間)に佐久間盛政の居城とされ、のちに廃城となり現在は住宅地なっています。
散策路になっているだけに周辺には寄り道したくなる所は多い。

f:id:owari-nagoya55:20200618174642j:plain 手水鉢は普通に見かけるものですが、後方の岩にご注目、岩のてっぺんに何かがいます。
それは亀、鉢に亀は分かるけれど、なぜここなのか知りたいところです。
岩に彫られた溝のようなもの、文字に見えなくもない。
亀が注いだ清水はこの溝を経て鉢に導かれる?もう少しよく見ておけば良かった。

f:id:owari-nagoya55:20200618174707j:plain 北参道と言っていいのかな?
雨に打たれた石畳と周囲の光景は厳粛な雰囲気を漂わせています。

f:id:owari-nagoya55:20200618174727j:plain 境内の社務所、中央の石畳の左が御神木のアベマキ、なんとも見事な枝ぶりです。
生憎の雨模様ですが緑は鮮やかさを増します、こうしたしっとりした雰囲気もいいものです。
手入れも行き届き、伊勝町の氏神さまとして親しまれているのが伝わってくる。
とても居心地の良い神社、そんな印象を受けました。
2020/06/12

伊勝八幡宮
創建 / 創建年代不詳
主祭神 / 品陀和気命(応神天皇)
相殿神 / 天王社(武速素盞之鳴命)、白山社(菊理姫命)
脇殿 / 熊野社(五十猛命)、天神社(菅原道真)
境内社 / 富士浅間社、山神社、埴山姫社、熱田社
住所 / 名古屋市昭和区伊勝町2-99
公共交通機関アクセス / 市営地下鉄鶴舞線「川名」下車、北に20分程

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