『吹上観音と白龍大神』名古屋市千種区

千種区吹上1丁目
通称100㍍道路と呼ばれ、市内を東西に走る若宮大通りの南にあたる。
大規模火災の延焼を目的とし、戦後の復興都市計画から生まれたこの道路。
車の行き来だけを思うと便利で快適だと思うが、歩く側からすると横断するのに厄介な道路。
名古屋台地の東端にあたり、ひと昔前は原野が広がっていた。

f:id:owari-nagoya55:20210302140304j:plain上は若宮大通りの「吹上ランプ南」交差点から西に一本入った通りからの眺め。
「吹上観音と白龍大神」はここに鎮座しています。

f:id:owari-nagoya55:20210302140330j:plainこの辺りは名古屋新田として開発された田畑だった。
そうした田畑を生業とした人が集まり、村や町が出来て行った。
大きな河川がある訳でもないので、一帯には点々と灌漑用の溜池があったが悉く埋め立てられて行った。

左の大正時代の地図では四角い大きな敷地がありますが、ここは1897年(明治30)から1965年(昭和40年)まで名古屋刑務所があったけれど若宮大通り建設に伴い三好市に移転した。
もう少し前だとこの辺りには火葬場や古墳もあった。

今ではこうして店舗や住居が立ち並び、立派な100㍍道路が走るけれど、この姿に至る以前から住む住民の住居や施設、遺構などの移転があってできた便利で先進的な風景です。
逆の見方をすると面白みのない風景かもしれないけれど、この近くにイタリア産の牛がいるようで、時にいい鳴き声が聞こえてくるのが面白い。

f:id:owari-nagoya55:20210302140413j:plainビルの南隣にブロック積みの車庫の様に作られた覆屋が「吹上観音と白龍大神」
左右に石標が立っていて、覆い屋の中には椅子も置かれ、ここを中心にしたコニュニティーになっているようです。

f:id:owari-nagoya55:20210302140436j:plain左は「小塚氏名古屋新田開墾記念碑」
名古屋新田の開拓は万治年間(1658~1660)新田頭の兼松源蔵と小塚源兵衛の二家により務められ、当初名古屋城下町に家を構えていたが、兼松家は天明年間(1781~1788)に現在の千種区高見町に居を移し、小塚源兵衛も1807年(文化4)に当時の古井村南吹上(若宮大通り辺り)に移ったらしい。
右手の石標は昭和42年に建之と記された移転建設記念碑がある。

f:id:owari-nagoya55:20210302140514j:plain覆屋内の眺め。
正面に大小三つの堂があり、右手前の入口側に地蔵堂と白龍大神の本殿。
香炉の上には複数の提灯が吊るされている。

f:id:owari-nagoya55:20210302140536j:plain入口の地蔵堂と左の手水鉢
詳細は分からないけれど、周辺の塩付街道沿いではこうした地蔵を見かける。
もとからここで安置されていたものではない様な気がする。

手水鉢は常に清水が満たされています。
堂内は水がまかれとても綺麗に手が掛けられていて、線香の香りが漂い、日々拝みに来られているようで人の温もりが感じられる。

f:id:owari-nagoya55:20210302140600j:plain龍大
流造の様ですが、側面から見ると奥の軒はとても短く片流れと云ってもいい造りかも知れない。
水を司る龍はひと昔前のこの地の土地柄を表しているのかもしれない。
由来や創建時期等は不明。龍は好きだが、蛇は好きになれない。

f:id:owari-nagoya55:20210302140631j:plain香炉を挟んで左右にも椅子が置かれている。
適度な距離を保ちつつ井戸端会議が開かれるのかナ。
ここに腰掛けていると観音様や地蔵さん、龍に見守られている感がある。

f:id:owari-nagoya55:20210302140655j:plain千手観世菩薩、吹上観音、弘法大師阿弥陀如来など、年期の入った提灯が天井一杯に吊るされている。

f:id:owari-nagoya55:20210302140722j:plain正面の三堂
大きな堂の脇には地蔵菩薩弘法大師像があり、中央にある一際大きな像が吹上観音と呼ばれる千手観音。

f:id:owari-nagoya55:20210302140744j:plain吹上観音
この千手観音はもともと若宮大通りができる以前に小塚家の屋敷に安置されていたものといい、1821年(文政4)の年号が刻まれたもので小塚村の守護仏だとされる。
黒光りした像は一部欠け落ち痛々しいけれどなんでも話を聞いてくれそうだ。
左の一刀彫の素朴な顔の表情は僅かに微笑んでいるようにも見える。

縁起なのか色々書かれたものが幾つもあるのですが、見えない、読めない。
お参りにこられた方に教えて頂きたいけれど、残念ながらお逢いする事はなかった。

吹上観音や白龍大神など祀られている神仏の多くは、この地の変貌にともない周辺から集まって来たものだろう。
誰もいないときには、この堂の中で世間話に花を咲かせているのかもしれない。
2021/03/01

吹上観音と白龍大
建立等 / 詳細不明
住所 / ​名古屋市千種区吹上1-5-7
公共交通機関アクセス / ​地下鉄桜通線「吹上」駅降車、西へ徒歩10分