愛岐トンネル散策路『山の神とんがり岩と護り稚児地蔵』

愛岐トンネル群。
春日井市岐阜県多治見市間にある旧国鉄中央線の廃線跡で国登録文化財「愛岐トンネル群」に指定されています。

明治33年(1900)国鉄中央(西線)として、名古屋から多治見間が開通し、日本の近代化から高度成長期を支えてきました。
やがてSLによる単線の輸送は、日本の高度成長に追いつかず、新たに複線の電化されたJR中央線として開業を始めると昭和41年(1966)に廃線となり、その後はその存在自体忘れ去られていきました。
平成17年(2005)に古老の記憶からトンネルの探索が行われ、土岐川沿いの藪の中に埋もれたトンネル群を発見、保全・解放されるまでになったもの。

愛岐トンネルの建築に際しては難関があり、トンネル崩落や土砂の崩落、幾多の犠牲者を伴いながら近代化を歩み始めた当時の智恵と技術が注ぎこまれ完成を見たもの。

玉野第四隧道。

両サイドの壁柱や壁面、綺麗な曲線を描く迫石など、赤レンガを使用したもので、近代工法のトンネルにはない造形美と温もりがある。
年二回、期間限定で一般公開されています。
今回は愛岐トンネル群散策で見かけた「山の神とんがり岩と護り稚児地蔵」を取り上げます。

玉野第四隧道解説。
土岐川右岸の散策路入口から二つ目のトンネルで通称4号トンネル。

山の神とんがり岩は4号トンネルを出た左の山肌にあります。

山の神とんがり岩全景。
土岐川右岸の岩肌に注連縄が巻かれた巨岩が聳え立ち、その下に素木鳥居が立てられています。
左手からとんがり岩の直下に続く小路が作られており、間近で拝めるようです。

遊歩道脇にも鳥居と解説板が設置されています。
解説は以下。
「“山の神”(とんがり岩)
山の神は女性(女神)だと云われます。
そのため昔は女性がトンネルに入ると女神が嫉妬して山が崩れるといわれ、女人禁制でした。
またトンネル工事などで、作業員の妻が出産した時は、女神の嫉妬を恐れ一週間坑内に入らないという決まりもありました。
正面のトンガリ岩を見あげると女神さまのお姿に観えませんか。
周囲のトンネル群を見渡せる高台にあり、まるでトンネル通行の安全を祈って いるようです。
ちなみに俗称・山の神とは、結婚後「ヤカマシクなった妻」のこと。
特に怖い奥さんのことを「山の神が怒る!」と言います。
「山の神」が短縮されて“カミさん”になったという説も・・・・。
また、トンネルの山の神は、トンネル工事が無事貫通したことから“難関突破” ”初心貫徹”の意味につながり「合格祈願」にもなります。
きっと拝んで損はありません!
特例*箱根駅伝 山登り5区の “山の神” は男性である」

女神の全景。
山の神は多くの場合、男神なら大山祇命、女神の場合は木花咲耶姫をさす事が多く、この女神はやきもち焼きで、解説にある坑内女人禁制や産後の一週間…のくだりはこうした業界では知られた話の様です。
今では草食男子に変わり女性技術者が多様な業種に活躍し、そんな縁起を担ぐことはないようです。
「怖い奥さんをかみさんと言う」については全くその通り、女神は一旦怒らせると大魔神になり、一旦噴火するとしばらくは鎮まらない、息をひそめ少し離れて時の経過を待つしかない。

護り稚児地蔵は4号トンネルを過ぎ、次の隠山第一隧道(通称5号トンネル)の入口右に安置されています。

入口右の隠山第一隧道解説。
玉野第四隧道と隠山第一隧道では右の壁柱から斜めにウイングと呼ばれる壁が作られているのが特徴で、山側の圧力を分散する地形に合わせた技法なのだろう。

護り稚児地蔵はこのウイングに寄り添うように安置されています。

護り稚児地蔵全景。
赤レンガで小さな祠が作られ、赤い前掛けが付けられた小さな地蔵が安置されています。

愛岐トンネル群の調査・整備中に付近の土中から少女形の地蔵が発見され、護り稚児地蔵として安置されたもので、祠に使われている赤レンガは明治期のものを用いて建てられています。

「護り稚児地蔵
トンネル群調査・整備活動中にこの近くの土中からモルタル製の少女のレリーフが彫られた「稚児地蔵」を発見しました。
右側は「昭●二七●十二」の文字、左側の文字は「鈴木 仲二郎?」と読めます。
どなた何方かのご供養か? どんな経緯で作られたものか定かではありませんが、「トンネルと廃線敷」一帯の安全と「豊かな渓谷の自然」が永久に続きますようにと願いを込めて、廃線跡から集めた明治の赤レンガで祠を作り安置させていただきました。 合掌
平成22年5月 愛岐トンネル群保存再生委員会」

銘が刻まれているとありますが、前掛けで隠れている事もあり、自分にはそれらしき文字は見当たらず、像の表情も伺い知れない状態でした。
こうした思いの込められた地蔵や古い建造物が打ち捨てられ撤去されていく中で、トンネル保存整備中の偶然とはいえ、再び安置された事はトンネル保存会の思いも現れているようでもある。

トンネル群を訪れる機会は年二回と限定されますが、トンネルを形作るレンガの造形美の他にも、こうした小さな見所もあります。

愛岐トンネル散策路 「山の神とんがり岩と護り稚児地蔵」
所在地 / 春日井市玉野町
公共交通機関アクセスのみ / ​​JR中央線定光寺駅から入口まで徒歩3分​​。
訪問日 / 2023/04/28
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